アーカイブ: 12月 2016

天ママStyle vol.94 “うかぶ涙”

 昨日、ボロボロを通り越して、ものすごく悲惨なお口の状態の女性の患者さんが来院されました。
「先生、とりあえず前歯だけなんとかしてください」と言われます。私の大嫌いな“とりあえず”頼み…
「それよりも、奥の歯が無いので、咬めていませんよ」
「それはいいんです」
「そういう訳にはいきません。私は美容部員ではありませんので、まずお口の機能を回復していただいてから、前歯をやりたいと思いますが…」
「エ~~、高いんでしょう…」
「高いとか、安いとかよりも、きちんとした治療をした方がいいと申し上げているのですが…」

 そこで私はいつものように、私の症例のスライドをお見せして、詳しく説明し、患者さんのレントゲン写真と照らし合わせながら、歯の図のレポート用紙に、ていねいに想定する治療内容を書き込みました。そして、治療の進め方、期間のおおよそをお伝えすると、すかさず、
「高いんですか?」
「う~ん、私の提案する金額がAさんにとってお高いのかどうかは分かりませんが、ガンの手術をする時にお値段の交渉をなさいますか?
 お口は健康の入り口ですよ。それに認知症を防ぎ、若く、美しくなり、もちろん食事が楽しくなるんですよ」
「え~、でも払えませんから…」
「わかりました。では、どの程度の治療をお望みなのですか?」
「この前歯だけを美しくしていただきたいのです…」
「それは先程から申し上げていますが、例え一時的に美しくしたとしても、奥の歯が咬めていなければアッという間に壊れてしまいます。つまり、その場しのぎの治療は申し訳ありませんが、私には出来ませんので…」

 以上の会話を数回繰り返し、Aさんはお帰りになられました。受付でもう一度話し込まれていたようですが、月々の支払いが1万円ならば当院で治療したいそうです。
 なんだか“バカにされている”ようで、この話は無かった事にしようと思います。

 医は仁術(人命を救う、博愛の道)といい、元々人を思いやる心で行うという事で、算術を絡ませず仁徳を施す事であり、他院にてさんざんもて遊ばれたようなガタガタの治療の後始末をするという事ではありません。
 ましてや、歯科治療は防げる疾患なのに、歯をまともに磨かず、予防の観念もなく、痛みが出てから歯科医院に駆け込み、「とりあえず痛みを取ってくれ!」と言い、痛みが消えると来なくなり、放置し、抜歯し、それでもどこかの残存歯で“咬み”、とどのつまりは保険診療で行き当たりばったりの治療の結果、どこでも咬めなくなり…、
そんな状態で私の所へ来られても…、為す術がなく、
「では、まず咬めるように、きちんとした治療をしましょう」という私の診断には耳を傾けず…

 私、実は毎日、このような患者さんと戦っています。それでも、私のような歯科医師のどこを信用してくださるのか、一生懸命通ってくださる患者さんもおられるのです。
 そのような患者さんに、時々お尋ねします。
「どうして当医院を選ばれたのですか?」
「どうして私の治療を受けようと決心されたのですか?」
「どうして自費治療なのに納得されたのですが?」
 その答えは
「ホームページを隅から隅まで読んで来ました。先生ならお話が出来ると思いました」
「先生の最初の一言が心に沁みました。先生は私の口の中を見て『大変ね、苦労したんですね。忙しかったのかしら…大丈夫ですよ』と言ってくださったのが、とても嬉しかったんです」
「先生が、どの先生よりも本当の事を言ってくださったので信用しました」
「『大丈夫、女性らしく美しい歯にしましょうね』と言われてホッとしました」
「先生の説明が分かりやすかったからです。今までの先生は、そこまで説明してくれませんでした」

 昔、開業したてで必死で勉強しながら働いていたある日、とても金持ちそうな男性が運転手付きの車で飛び込み来院され、私の提案する治療を黙って受けられました。3~4ヵ月経過し、治療が完了した日、私はこの方に一言お聞きしました。
「どうして私の治療を受けられたのですか?」
「君が、初めて本当の事を言った歯科医師だったからだよ。
 君は良い治療をした。決してこれからも自分の腕を安売りしないように…ありがとう」
 私は浮かぶ涙をこらえて、深々とお辞儀をしました。
 この患者さんの言葉が、今でも私の心の支えであり、歯科医師としてのプライドです。

 カテゴリ:天Mama Style, 院長ブログ

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