殺し文句

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上の前歯が4本ほど、下の歯もまばらにチラホラ・・・・・
それらが全部(全部でも10本ほどですが)グラグラです。
 「全部抜いてください」
 「・・・・・・・・」
歯を抜くことが商売の私にとっては、いとも簡単なことではありますが、
言葉にならないとはこのことです。
このような患者さんにめぐり合ったとき、
以前の私は「なぜもっと早く治療に来られなかったのか」と患者さんを責め、
どうにもならないお口の状態にアイソをつかしたものでした。
しかし、最近は一呼吸置き、長い沈黙ののちに
 「いったい、何があったのですか?」
 「そんなにお仕事がお忙しいのですか?」
 「ここまで我慢なさった理由を教えていただけませんか?」
 「もしかしたら、歯医者さんのいないところに住んでいらしたのですか?」
 「体に力が入りますか?毎朝、いきいきと目が覚めますか?」
と、患者さんが、ここまでのお口の状態を悪くした根本的な理由、
その生活背景を徹底的にたずねます。
なぜなら、理由の確認がないとどんな治療をしたところで、結局”元の木阿弥”なのです。
つまり、理由・原因の再確認のない患者さんは、
必ず治療の途中で来られなくなってしまいます。
そこで、治療を途中で放棄されないためにする努力を例としてあげてみます。
A. 年老いた両親の看護が忙しくて来られず、2人の葬式を終えてやっと来院された方には、
  いろいろな面で励ましながら治療を進めます。
  ときどきは思い出話だけで帰られることもありますが、
  治療が終わる数ヵ月後には、別人のように明るく美しくなられました。
B. 歯医者さんが怖い」という恐怖心から治療に来られなかった方には、
  とにかく説明にしっかりと時間をかけ、納得してもらい、
  あくまで患者さんのペースで運びます。
C. 仕事が忙しかったから」という本当なかもしれませんが、
  たんなる言い逃れ的な理由を言われる方には、同情しつつ話をすすめ、
  忙しいからこそ、体を大事にするために歯の治療を受けることが
  大切であることを訴えます。
D. 行き当たりばったりに、ただ突然痛いからと来院された方には、
  私のところへ来られたことは人生最大の幸運であったことを教えてあげます。
E.「とりあえずこの歯だけお願いします」と言われる方には、
  本当にその歯だけしか治療をしません。
  そして、その歯の治療が終わったときに、必ずイヤミなひと言を言うことにしています。
 「今度、他の歯が悪くなっても、知りませんからね」
 
 「ハッ?」
 「私はこれでも歯医者の端くれですので、
  悪いとわかっている歯を見過ごすことはできません。
  つまり、このまま治療を中断することは不本意ですので、
  次回は違う歯医者を見つけてやってもらってくださいね」
  すると患者さんは、顔色を変えて考え込み、
  必ずこれからも通院されることを誓われます。
私って最近もしかしたら、改めて歯医者の原点に立ち返ろうとしているのかもしれません。
まず、患者さんの立場を理解し、あるときは同情し、
そして最後は医者らしく本当のことを言う。
私のやり方が良いか悪いかは別にして、
患者さんと歯医者さん双方の努力の結果が治療の完結なのですから、
まずお互いの立場を理解することから始めなければ、良い治療はできません。
10年遅いスタートから歯科医師になり、22年を迎えます。
本当に毎日が試行錯誤の泥沼です。
またそのことを意識できるうちが現役だと思っています。
このような意識がないと仕事がつまらなくなります。
つまり、仕事の達成感は困難が大きいほど嬉しいものなのです。
マッ、当たり前と言えば当たり前ですね。
どのような先生が良い先生かは、私を含めあまりわかりませんが、
「この先生だ!」
と思えるいい先生にめぐり合ったときに、
その先生を上手に乗せていい治療を受ける方法をお教えします。
先生の説明を受けた後、ひと息おいて、
 「先生!わかりました、おまかせします!
  好きなようにやってください!
  そして、よくかめて美しい歯をお願いします!」
この言葉は歯科医師に対しての<殺し文句>です。
タイミングよくお伝えください。
さあ、今日もがんばろうっと!

  カテゴリ:ジャンヌダルクは燃えている

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