GINZA SIX 裏 / レナ・レスボワール 上
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vol.13 おバカ新人歯科医

前回の続きで『おバカ新人歯科医』のお話をしましょう。
彼女の年は30歳、2浪して入学、卒試で1回、国試で1回、計2回のダブリ後、
1年間の研修期間を終えて当院へ就職(自分から売り込んで来た)。
在学中、奨学金を満額借りていたため、現在月々5万円の返済中。
更に今年からは、彼女にかかった学費の一部として
2000万円を両親に返済するよう言い渡されています。
普通、このような状況下では、必死の形相で早く一人前になりたいとあせるものですが、
彼女はそうではありません。
「私は院長のように咬み合わせや咬合が判るようになりたいです」と、
幾度となく言っているので、先月、そのために何の本を読んだのかと聞くと
「解剖です」と答えました。
では、その解剖の本で何か判ったのかと更に聞くと、
「臼歯部は、1歯対2歯の咬合だということが判りました」………「バカ!!」
今更、今頃読む本でもありますまいに。
恥ずかしくて声に出せる返答でもありません。
おまけに咬合面の作業側と非作業側を反対に思い込んでいました。
前歯部に出来たエプーリス除去術をしながら「エプーリスとは何ですか」と彼女に聞くと
「判りません」と言います。
除去術が終わってもまだ立っているので「調べて来なさい」と言うとどこかへ消えて、
しばらくして私に大きな声で説明し始めましたので
「私は知っています。それに最も大事な[再発]ということが抜けています。
一体、何の本を読んだのですか?」
 
彼女の手には“よく判る外科のマニュアル本”という小冊子がありました。
名誉のために申し上げますが、当医院の本棚には歯学部の教科書は当たり前、
参考書も価格の高い立派な本も一杯置いてあります。
就職したての頃は、余りにも一杯やらなくてはいけないことがあって、
私は半年間程不眠症になりました。
現在の当医院の副院長は、つらくて自殺を考えたと言っています。
それは大袈裟にしても、みんな必死になったものです。
ところが彼女は、「調べなさい! 見てご覧! これはこうです。いいですか!」
と連発してもウワの空……。
挙句に「あなたは学生時代卒業したら歯科医として働くという自覚がありましたか?」と聞くと、
「ありませんでした」と正直にもホドがある答え……。
つまり、歯科医も歯科衛生士もそうですが、免許を取得するという事は、
タービンを持って、スケーラーを持って患者さんの口の中に触れたり、
歯を削っていいという許可を得ただけであって、免許取得イコール治療が出来る、
ではないということを学生時代に認識しておく必要がありますね。
当医院のおバカ新人歯科医は、借金まみれであるにもかかわらず、
働くということが判っていません。
私はある日、こんなイジワルを言いました。
「スタッフがあなたの事を仕事も出来ないくせに給料をもらうなんて! 言っていますよ」
すると、彼女は「誰が言っているんですか?」とすごい剣幕です。
私は、
「スタッフが言っている事は当たり前です。
就職先で“働け”と言われずに“勉強しなさい。勉強しなさい”と言っていただく有難さが
あなたには判らないのですか?
 それとも勉強の仕方が判らないのですか?」
……「ハイ」……
私が学会に行っている間に他院への就職を考えておくようにと言い残して
10日間ほどの学会から帰ってくると、
彼女は新しい就職先を見つけていました。
確かに彼女の存在自体が私にとってストレスの原因ではありましたが、
あまりにアッサリと他院への就職を決めていたのには、なんだか気が抜けました。
そして、
「先生が、私をしかることで疲れていらっしゃるようなので辞めます。
お給料は、ここへ振り込んで下さい」
ヤッパリ、クビにしてよかったようですね!

カテゴリー:天Mama Style  投稿日:2008年12月4日