天ママStyle vol.87 “娘と私(その1)”

青いあおい空に…遠くとおく続く砂浜…寄せる白波…

走り回る日本から連れて来たジャックラッセルの“ハニー”を追う“クリス”。
すっかり化粧をすることを止めた娘の“サハリ”が持つバスケットの中には、クリスが大好きなからあげと卵サンドイッチとコカコーラが入っている。

「ランチにしない?」娘は2人に声を掛けた。

私が30歳で北海道の歯学部へ入学した時、娘は2歳前でした。その半年程前から嫁ぎ先を飛び出し実家で居候生活をしていた私達に世間の目は冷たく、「サハリちゃん、パパはどうしたの?」と遠慮のない質問をしてきます。
「パパはいないの!」と健気に答えて笑う娘を見て、私は歯学部入学前に離婚届けを出す決意をしました。

突然歯学生となった私は、冬、春、夏休みは実家へ帰り、娘と1日中たっぷりと過ごしていましたが、やがて大学へ戻る日になると、娘は朝からタオルで顔を覆い、私の車に手を振るやいなや自分のベッドにもぐり込み、「来ないで、来ないで!! 誰も来ないで!!」と泣きじゃくっていたそうです。

私は私で、遮る雨が降っているわけでもないのに、ワイパーを動かしながら止まらない涙に視界を失っていました……。

ある時、幼稚園児になった娘が言いました。
「ママはどうして優しいパパと結婚しなかったの?」
「なぜそんな事を聞くの?」
「優しいパパがいたら、ママが学校へ行って勉強しなくても良かったでしょう?」
「パパは本当は優しい人だったのよ。だけど約束を破ったの…ママは約束を破る人は嫌いなの。ママが今、学校に行っているのは、サハリと2人で楽しく暮らす為なのよ。
もう少し我慢してね。
それより、あなたには、兄弟も、いとこも、パパもいないので、ママが死んだら1人ぼっちなのよ。だから1人で生きて行く事を考えなさい!」
「いやだぁ~、ママが死んだらいやだぁ~」
「何言ってるの、しょうがないんだから、今から覚悟しておきなさい!」
「いやだぁ~…」

すると突然聞こえた母の声。
「おまえ、こんな小さな子に何を言っているのですか!
止めなさい! かわいそうに…」

歯学部を終えようとする頃、教授の推薦で、義歯の大家の河邊先生の臨床教室に通えるお話をいただきました。私はどうしても、このチャンスを逃したくなくて、小学生になっていた娘に、あと2年間、勉強させて欲しいと頭を下げるために、実家へ帰りました。

娘は私の勝手な申し出に、「ママ、私は6年間もママを待ったのよ。なんで帰って来てくれないの……」と号泣!!
私は心を鬼にして言いました。
「ごめんなさい。本当にごめんなさい。おまえが大きくなって、やりたい事や行きたい所、好きな人が出来たら、ママは全力で応援するから、今はママのやりたい事を応援して欲しいの…
お願いです。ママはもう少し勉強したいのです!」
「いやだ~、絶対いやだ~」
またもや、泣きじゃくる娘……

東京に出て、夜9時過ぎまで働きながら学ぶ私には、娘を引き取る余裕はありませんでした。そんな私に、長い休みになると今度は娘が会いに来てくれるようになりました。

なかなか帰宅しない私を責めもせず、田舎にはない“セブンイレブン”で焼きソバ弁当を買ってじーっと待っている小学生の娘……いつからか、院長室で寝て待つようになりました。

すっかり寝てしまった娘を抱きかかえての帰り道。
『この子はきっと私を理解してくれる。でも寂しくて寂しくて仕方がないんだ…。私も同じように寂しいし、何の為にこんなに働いているのか時々分からなくなるけれど、早く稼げるようになり、早くあなたを引き取れるようになるからね』
泣く力もなく、疲れ切っていた私でした。

サンディエゴの海は、どこまでもどこまでも青く遠く、水平線の遥か向こうに……日本がある……
年末に結婚したクリスとサハリは、初めて訪ねて来る私をどんな想いで待っていてくれるのだろうか?

「ママに、虎屋のおしるこを頼んだよ。それに切り餅とセブンイレブンの魚の缶詰とシャケフレークに、桃屋のラー油も。それから大葉と枝豆の種も」
「ママは運び屋かい?」
「うん、重量オーバーになるからビジネスクラスにしたって…」

私は何が何でも2人の幸せを祈っている……
(次号は娘を東京へ引き取ってからの事を書いてみようと思います)

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