天ママStyle vol.88 “娘と私(その2)・3万円のディナー”

中学生になり、反抗期に入った娘に母はとうとう音を上げて“早く東京へ引き取ってくれ!”と言いました。
友人達は女子高を勧めてくれましたが、父親がおらず、兄弟もいない娘のために、自転車通学が可能な男女共学の帝京高校を選びました。
当時の帝京高校は、サッカーも野球も日本一で、その日本一のサッカーや野球部員のいるクラスは活気に溢れ、勉強するより応援に飛び回り、高校生活で考えられるあらゆる楽しい経験をしたと後に娘は言っており、私の高校選びは成功しました。

高校1年生の夏休み前に、娘に何がしたいかと聞くと、中学生の頃からクラブを握っていた娘は「ゴルフをやりたい!」と答えました。
そこで、ゴルフ場を経営している友人に連絡をし、ひと夏、娘を預けることにしましたが、その友人に「女の子を、それも16歳を山奥のゴルフ場で預かるのはいかがなものか…」と心配されました。しかし、「殺されなければいいんです。責任は全部、私にあります。よろしくお願いします」と頼み込みました。

夏休みに入り、娘をゴルフ場に預けに行くと、マネージャーさんが、プロゴルファーを目指す研修生のための寄宿舎に案内してくれましたが、クーラーも無く、ボロボロの畳の部屋です。
私は近くのスーパーに走り、カーペットと洗濯用のロープを買い、カーペットを敷き、ロープを部屋に張り、洗濯物を外に干さないように指示して帰ろうとすると、娘は涙をこらえて、
「私はゴルフをやりたいと言っただけなのに…」
「だから、これが1番近道なのよ。頑張ってね。3日経ってもダメだったら、迎えに来るからね」
笑顔で手を振りながら、私の心は穏やかではありませんでした。

1日目…夕方、大泣きで電話があり、
「帰りた~い」「あと2日頑張りなさい!」
私はマネージャーに電話をして、その日の夕食を娘と一緒に食べて欲しいと頼みました。
2日目…また、泣きながらの電話。
「いやだ~帰りたい」「あと1日我慢しなさい」
マネージャーは、この日も一緒に食事をしてくれたようです。
3日目…泣いていません。
「あっ、ママ」「3日経ったから、明日迎えに行こうか?」
するとしっかりした声で「来なくていい」「大丈夫なの?」「うん」
電話を切った私の方が、泣きそうになりました。

10日程経過した週末、年2回の河邊先生の特別セミナーを受け疲れて帰って来ると、自宅に人が入った気配がします。
テーブルに娘からの書置きが…“勉強道具を取りに帰りました。お風呂に入りました。気持ちよかったです。戸締りはきちんとしてください”

私は慌ててクーラーボックスを持って外へ飛び出し、タクシーを止めて取手のゴルフ場までの往復のタクシー代を交渉し、そのタクシーに飛び乗りました(疲れている事と翌朝が早い事を考えると、自分で運転する気になりませんでした)。
途中でクーラーボックスをいっぱいにし、ドライバーに30分待つように告げて、真っ暗な山道を歩き、寄宿舎の庭に回り、雨戸を叩くと“だれ~~~!!”と娘の叫ぶ声が…
驚いたことに、お盆休みで寄宿舎には娘以外、誰もいません。
案の定、寄宿舎の夕食を食べそびれていた娘はコンビニのお弁当を嬉しそうに食べています。
「サハリね、今夜のこのディナーは高いよ!」
「へぇ~いくら?」「デザート込みで3万円」「ふーん」
往復で3万円のタクシー代で飛ばして来た私に驚きもせず、平然とお弁当を食べる娘を見ると、娘の身体はあせもに塗ったシッカロールで真っ白です。
「どうしたの、その白いの?」
「キャディのおばさんが心配して扇風機を貸してくれて、このシッカロールもくれたの。おばさん達、ママの事を“鬼”って言ってたよ!」「サハリもそう思うの?」「ううん、思わないヨ」

私は、この真っ白になった娘を連れて帰ろうと泣き崩れそうになりました。でも、キャディのおばさん達の顔が浮かび、(私の娘だ、この子は負けない…キャディーさん達、どうかこの子を見守ってください。私は鬼の親です!)、タクシーを待たせていた事を理由に、娘をそのままに、その場を後にしました。
「戸締りをちゃんとするのよ!!」

長かったような、短かったような3週間程が過ぎ、取手のゴルフ場に駆けつけた私は、待っておられず、娘を見つけると18番ホールに向かって歩き始めました。
お客様に気を使いながら働く、真っ黒に日焼けした娘に手を振ると、お客様全員で私に手を振ってくださって、その中のお1人が、「あなたのお子さんですか?とてもいい子ですね。何も言わず好きなように育ててあげてください」と言ってくださって…
私は涙でグシャグシャになりながら、何度も頭を下げ、娘の粗相を伺い、嬉しさと有難さに胸がいっぱいになり、娘を抱きしめていました。

娘の高校1年生の夏休みはこうして完結しました。この経験のおかげか、娘はバフィーで230ヤードは飛ばせるようになり、同級生の東尾理子ちゃんと帝京高校でゴルフクラブを作りました。

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