No.33 歯医者冥利

年末、80歳前後のご婦人が来院されました。
彼女はある大学の口腔外科の処置で上顎の顎堤を失い、
そこの補綴科で常時開咬したままの、
訳の分からない義歯を3年間入れられ、
咬むことも、話すことも、歩くこともできなくなり、
痴呆症のようになってしまいました。
お金はいくらでも出すから、何とかしてほしいという娘さんにお尋ねすると、
なんとこのご婦人の実年齢は64歳でした。
”不可能”という言葉を知らない私でも、
さすがにお手上げで、
断っていただくつもりで高額を提示し、
その日はお帰り願いました。
ところが、翌日「ぜひお願いします!」と娘さんに全額完納されてしまったのです。
ラッキーな不幸が始まりました。
まず常時開咬状態(左右7番でロック)の義歯を完全修理、
リライニングして正常咬合にし、
娘さんの腕に抱かれていたお孫さんの持つ『カミカミおしゃぶり』で
咬む力を付けるよう指示しました。
当然口腔内はカラカラで、
義歯はガタ落ち、
下顎はスケートデンチャー状態でした...
そして2週間近くの冬休み明け、
その方は一人で歩いて診療室へ入って来られ、
聞き取り難いのですが、
「ありがとうございます」と言われ、
口の中に唾液が溢れていたのです!
私は感動で涙がこぼれそうでした。
と同時に「これで返金せずに済む!」とホッとしたのも事実です。
気の弱い私は、この方の機能回復に失敗した場合は返金するつもりでいたのですが、
この瞬間から、外見も実年齢に近づけてみよう!と
めっそうもない欲を持ってしまいました。
それから1ヶ月、最近の彼女は一人で食事ができるようになり、
はにかみながら笑顔を作り、
この3年間で20キロ痩せた身体が少々戻りつつあるのか、
顔色も良くなりました。
まだまだ数ヶ月以上、この方との付き合いは続くと思いますが、
こういうことが”歯医者冥利に尽きる”ということなのでしょうね。
私頑張ってます!
皆様も頑張ってください!
こんな自分を時々褒めてやりたいので、
たまには飲みに誘ってください!

  カテゴリ:デンタル小町

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