院長ブログ Blog

天ママStyle vol.97 “後始末”

 昨年末、予約の取れないレストランで2人の素敵なセレブ女性と知り合いになり、最近はいろいろなレストラン巡りをしたり、吞み歩いたりと女子会をする間柄になったある時、その1人のAさんが親知らずを抜きたいが、現在通っている歯医者さんに“熱が出て腫れるかも…”と脅されて、怖くて行けないと相談を受けました。

 数日後、恐る恐るAさんは当院へ来られました。まず、レントゲンを撮って、私は驚きました。
【所見】全体的に中度から重度の歯周病(歯周ポケットが5~7mm)。特に臼歯部は抜歯の必要性あり。抜けた部位は放置されたまま。ヘビースモーカーで、幼少期に矯正をしてから歯が悪くなったと本人の主張。

 初日ですので、一応状況を説明した後、「まだ痛みの出ていない親知らずを取りましょうね」「エッ、抜くのですか?」「抜くとは大げさな…つまんで取るだけです」となだめ、痛くないように注射をし、あっという間に親知らずを取りました(抜きました)。
 なんとあれほど恐れていたAさんは、その夜、吞みに出かけたそうです。
 数日後の来院時に、彼女自身の歯型の模型で詳しく治療の説明をし、早急に手を打つべきと申し上げると、「いつもの先生からは、このままで様子をみましょうと言われて安心していたし、歯石も取っているし、クリーニングも通っています」とご立腹!!
 そこで私は言いました。
「これ以上、私に言わせないでください。これ以上言うと、同業の悪口になりますので…。とりあえず早急に治療が必要です。このまま現状を維持するだけだと、どんどん歯を失いますヨ」
「考えさせてください」
「もちろん! それより何よりタバコをやめてくださいね」
「わかりました」

 日を待たず、今度はもう1人の他院で治療が終わったばかりのBさんのお口の中を見せていただく事になりました。
 Bさんは治療が終わったものの頭痛が続き、あまり咬んでいる気がしないそうです。
【所見】下の臼歯部の両サイドにインプラントが計4本埋入され、その前部上下にセラミックの歯が装着されていますが、そのいずれもの歯がまったく咬み合っておらず、前歯部で咬んいでるだけなのです。頭痛もこの不正咬合によるものと思われます。

 そこでBさんに正常な咬合関係(咬み合わせ)にするために、インプラントの入った下の歯ではなくて上の歯で、合計7本の歯に新しくセラミックの歯をかぶせなおして、正常な咬み合わせにする事を提案しました。

「いやです先生、私、ものすごくお金をかけたのです。それに、この治療をしてくださった先生は優しくて、素敵な方で、私、好きなんです!」
…なになに、では私の事は嫌いかい! という気持ちを抑えて、さてどうしたものかと黙秘してしまいました。
 そうしなければ大声でBさんが信じる優しく素敵な先生の悪口を叫んでしまっていた事でしょう。
 もし次回、Bさんが来院されたら、落ち着いて模型で説明をするつもりです。

【私の本音】
(だいたい優しい先生、素敵な先生といわれている先生ほど、腕はありません。腕が無いから口先の優しさでごまかすのです。それに女性にインプラントを勧める先生を信頼してはいけません。インプラントは万能治療というものではなくて、インプラントしか出来ない先生がやるものです)と言いたくなります。

 話は変わりますが、もう1人なかなか大変な患者さんがおられます。
 この方は他院にて治療した、考えられない程とてつもない前歯のインプラントを嘆いて来院された方で、ご本人の納得後、インプラントの上部を外し、とても素敵な義歯にしてさしあげました。ここまでは上出来だったのですが、下の義歯が合わないと2年以上もほとんど毎日調整に通って来られています。
 その下の義歯がイマイチの最大の理由はどこかの先生がやったブリッジをグラグラの状態で放置したために骨が吸収されてしまって、義歯を支える骨がほんの少ししか残っていないからです…私自身の名誉のために申し上げますが、私の作った義歯が不出来だからという訳ではありません。
 それなのに、来院される度に、恨み、辛み…2年以上も我慢している私にも、そろそろ限界が来ています。
『私に文句を言うよりも、私の前に治療をした先生方に文句を言ってください。
さんざんほかの先生にお金を使った後に、治療費が高いとか…話が違うとか…下手だとか…だまって我慢していりゃあ、言いたい放題! いい加減にしてください!!』

 私は後始末係ではありません!!

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天ママStyle vol.96 “院長の心がけ”

 昨日の日曜日はスタッフ達とミステリーバスツアーに出かけました。イチゴ農園ではたらふくイチゴを食し、焼津の漁場ではお寿司の食べ放題、そしてわさび工場を見学後、世界遺産の三保の松原の散策等、盛りだくさんの旅を、気のおけないスタッフ達とワイワイと遊び、とても楽しい1日でした。

 スタッフといえば、最近出産で辞めたスタッフがいて、そのためにスタッフ募集をしているのですが、なかなかいい人がいません。というか、応募がありません。
 あるとしても、自分の都合の良い時間だけ、それも週3日程度働きたいとか(暇つぶしじゃあない!!)、給料を細かく聞き出し、ボーナス査定の内容や有給の有無、さらに仕事内容を微に入り細に入り聞いてきます(そんなの決まってからでもいいでしょうに)。
 雇う側としては…そこまで聞くのなら、年齢から容姿の美醜、仕事のできる程度や性格の良し悪しまで聞きたくなります!

 そしてやっと面接にこぎつけると…
・主人と相談して決めます(ご主人は、当院の顧問ではありませんヨ)
・子供の都合がありますので(解決してから来てください)
・予防をしたいのです(あなたの考える予防とは? 何が出来ますか?)
・インプラントをやっていますか?(それがどうした?)
・担当制ですか?(そうしたいけれど、大丈夫なの?)
 私は決して完璧なスタッフを求めている訳ではありません。明るく素直で、勉強熱心な人を探しているだけなのですがね…

 30年以上も働いていると、数え切れないスタッフ達と関わってきました。あっという間に消えて行った人やお局さんのように居座っている(ゴメン!!)スタッフもおります。その、どのスタッフもありがたい存在でしたし、現在もその関係を維持しているつもりですが、その中で忘れられない辛かった時期のお話をしましょう。

 ある時、本当にどうしていいか分からない程、従業員達と自分がバラバラになり、仕事場のドアを開けるのが嫌になった事があります。あいつが悪い、一体誰が悪いのかと、すべてをスタッフのせいにしておりましたが、気が付いたのです!!
『自分がダラダラしているから、言う事を聞いてくれないのだ。自分にしっかりとしたポリシーが無いから付いてきてくれないのだ』と!!
 そうなんです。まず私自身が心を改めないとスタッフ達とうまくいくはずないことに気が付いたのです!!
 それから私はしっかりと自己反省をし、その気付いた事を医局に【院長の心がけ】と称して張り出しました。
1.毎朝、明るく大きな声で挨拶をします。
2.患者さんのために良い仕事をします。
3.皆さんと楽しく働くよう心がけます。(以上、院長の心がけ)
 しばらくして、今度はスタッフ達が書いたものを張り出しました。
1.遅刻せず、真面目に働きます。(Aの心がけ)
2.常に笑顔を忘れません。(Bの心がけ)
3.早く仕事を覚えます。(Cの心がけ)
4.患者さんの味方になるよう気を配ります。(Dの心がけ)

 1カ月ごとに書き換える事にしました。
 不思議なもので、院長自身が良い仕事をし、良い心がけでいると、スタッフ達は落ち着き、嫌なスタッフは静かに去って行ってくれました。

 あと気を付けなければいけないのは、スタッフの数が多くなる程、まとめ難くなり、不満がこぼれ、騒動が起きやすくなる事です。このようになりかかった時は、早めに手を打ちます。
 スタッフの中の誰か1人を自分の理解者に育てます。そして、そのスタッフにグチります。
“最近、疲れて仕方ないんだけど、どうしてみんなバラバラなのかしら…私は仕事に集中したいだけなのに、みんなミスばかりして、イライラさせられるのは私が悪いのかしら…どうしたらみんなが楽しく働けるように、私のイライラを消すには…どうしたらいいと思う?”
 と、悩みを打ち明け、理解を求め、スタッフ達に話しかけてもらうようにします。
“院長、最近疲れてるんだって…私達はスタッフなんだから、もう少し院長をサポートするようにした方がいいと思うんだけれど…患者さんには私達が優しく接しましょうヨ。院長より大きな声で明るく話かけましょうヨ”
 少し効果が出てきたら、そのスタッフのお給料にチーフ手当てを付けてあげましょう。

 歯科医師という職業についている人達は、社会的苦労を経験せず、早くから“先生、先生”と称され、おだてあげられ、あまり自己反省をする機会がありませんので、スタッフ達がモメた時は(身から出たサビ)と自己反省をし、皆から尊敬される院長になりましょう。

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天ママStyle vol.95 “キューバ”

今年の冬休みは、昨年の暮れからキューバに行っておりました。
 サンディエゴに住む娘とハバナで落ち合い、クリスマスをハバナで過ごした後、クルーズ船に乗船してキューバを周遊しながら途中ジャマイカに立ち寄り、お正月のカウントダウンを船上で祝い、またハバナへ戻るという船旅です。

17~18年前に、メキシコシティでの学会後、キューバに飛んで以来の2度目のキューバ訪問は、予想に反して、とても楽しいものでした。
 遠い国の、それも社会主義国というだけで、皆さんは“怖い国”というイメージを持たれるかもしれませんが、実はキューバはとても安全な国なのです。
 町の至る所に監視カメラが設置され、要所要所に数名の警察官が立っています。ですから、私達母娘は夜中までウロウロ歩き回りましたが、他の国を歩く時に感じる怖い視線や危ない動きをまったく感知する事がありませんでした。
 そんな心配よりも、町のそこかしこから流れてくるキューバン
ミュージックに思わずステップを踏んでしまっていたのです。

キューバは、カプチーノが美味しいです。たった1軒のチョコレート専門店には、常に長い列ができています。至る所でさまざまなバンドがキューバンミュージックを奏でています。CDをいっぱい買ってしまいます。Wi-Fi事情は悪いです。地ビールの工場があり、そのほとんどがスタイリッシュなカフェを併設していて、とにかく素敵です。
 1950年代のアメ車が、今でも現役で走っています。そのアメ車がイケていてカッコイイのです。世界遺産のoldtownはタイムスリップの世界です。カメラ狂にはたまらない町です。

アメリカと国交を開いてまだ間のないキューバなので、訪れるなら今のうちですよ。この不思議な国が、不思議でいるうちに訪問してみましょう。旅の楽しさのすべてが味わえます。

年明け早々、相当に口腔状態の悪い患者さんが来院されました。
「あらあら、これじゃあ咬めませんね。何とかしなくてはいけませんね」「いいんだよ、俺もう70歳なんだから…」「なんという失礼な!! 私ももうすぐ70歳ですが、あなたのように人生を諦めてはいませんよ」「ヘ~ホ~」「まぁ、どちらでも構いませんが…人生を諦めている人に、何をしても仕方がありませんね」「ふーん…ちょっと考えてみるわ」
 もう1人、年明けに見学に来られた歯科医師の方いわく「借金を抱え、考える事も多くて…大変なんです!」「で! どうしたいの?」「頑張ろうと思います」「それならば、火曜日か木曜日に勉強に来てはいかがですか? 教えてあげますよ」「チョット考えます」「何を考えるのですか?」「まだ開業して1年半なので、何をしたいのか思案中なんです」「もう1年半も経過しているのなら、少しは焦ったらどうですか?」「日々の診療に追われているものですから…」

何のために当医院へ見学に来られたのかは知りませんが、たった1日来て、何を得ようとしているのでしょうか…
 日々借金を背負いながらも、なんとか生きている先生と、しっかり咬めなくても平気な人生を送っている患者さんにお会いするはめになり、新年早々うんざりしてしまいました。
 いいですか、皆さん!
 マイナーな人に会うとマイナーが感染(うつ)るので、なるべくメジャーな人に会うようにしましょう。ところが、マイナーな人はメジャーな人が好きで、すぐにくっついて来ますので、力強く振り払いましょう。よく覚えておいてください。

さて、また話を戻して、今回の旅先で会う皆さんが、私の年齢を聞いてびっくりします…《若すぎる》そうです…固定観念から抜け出して来たはずの旅人達が驚かれるのです。彼らは《どういう美容整形をして、何を飲んでいるのか》と必ず私から聞きだそうとします。
 それこそ《悪い事ばかりして、男を食っている》とは言えませんので、笑ってごまかしますが、若さの秘訣の答えがキューバにある事に、私は気付いていました。

『彼ら、彼女達は、誰のマネもせず、人生を年齢で判断するわけでもなく、着たいものを着て、それをオシャレに見せます。次に、過労死するほど働かず、他人を羨まず、嫌な事があると踊って忘れ、歌って元気になり、ちょっと美味しいものが食べられたら最高の笑顔で笑い、葉巻なんてキャンデー代わりとうそぶきます』

こういう感覚で、私も生きていたいのです。だから、私は若いのかも……

キューバ大好きです。

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天ママStyle vol.94 “うかぶ涙”

 昨日、ボロボロを通り越して、ものすごく悲惨なお口の状態の女性の患者さんが来院されました。
「先生、とりあえず前歯だけなんとかしてください」と言われます。私の大嫌いな“とりあえず”頼み…
「それよりも、奥の歯が無いので、咬めていませんよ」
「それはいいんです」
「そういう訳にはいきません。私は美容部員ではありませんので、まずお口の機能を回復していただいてから、前歯をやりたいと思いますが…」
「エ~~、高いんでしょう…」
「高いとか、安いとかよりも、きちんとした治療をした方がいいと申し上げているのですが…」

 そこで私はいつものように、私の症例のスライドをお見せして、詳しく説明し、患者さんのレントゲン写真と照らし合わせながら、歯の図のレポート用紙に、ていねいに想定する治療内容を書き込みました。そして、治療の進め方、期間のおおよそをお伝えすると、すかさず、
「高いんですか?」
「う~ん、私の提案する金額がAさんにとってお高いのかどうかは分かりませんが、ガンの手術をする時にお値段の交渉をなさいますか?
 お口は健康の入り口ですよ。それに認知症を防ぎ、若く、美しくなり、もちろん食事が楽しくなるんですよ」
「え~、でも払えませんから…」
「わかりました。では、どの程度の治療をお望みなのですか?」
「この前歯だけを美しくしていただきたいのです…」
「それは先程から申し上げていますが、例え一時的に美しくしたとしても、奥の歯が咬めていなければアッという間に壊れてしまいます。つまり、その場しのぎの治療は申し訳ありませんが、私には出来ませんので…」

 以上の会話を数回繰り返し、Aさんはお帰りになられました。受付でもう一度話し込まれていたようですが、月々の支払いが1万円ならば当院で治療したいそうです。
 なんだか“バカにされている”ようで、この話は無かった事にしようと思います。

 医は仁術(人命を救う、博愛の道)といい、元々人を思いやる心で行うという事で、算術を絡ませず仁徳を施す事であり、他院にてさんざんもて遊ばれたようなガタガタの治療の後始末をするという事ではありません。
 ましてや、歯科治療は防げる疾患なのに、歯をまともに磨かず、予防の観念もなく、痛みが出てから歯科医院に駆け込み、「とりあえず痛みを取ってくれ!」と言い、痛みが消えると来なくなり、放置し、抜歯し、それでもどこかの残存歯で“咬み”、とどのつまりは保険診療で行き当たりばったりの治療の結果、どこでも咬めなくなり…、
そんな状態で私の所へ来られても…、為す術がなく、
「では、まず咬めるように、きちんとした治療をしましょう」という私の診断には耳を傾けず…

 私、実は毎日、このような患者さんと戦っています。それでも、私のような歯科医師のどこを信用してくださるのか、一生懸命通ってくださる患者さんもおられるのです。
 そのような患者さんに、時々お尋ねします。
「どうして当医院を選ばれたのですか?」
「どうして私の治療を受けようと決心されたのですか?」
「どうして自費治療なのに納得されたのですが?」
 その答えは
「ホームページを隅から隅まで読んで来ました。先生ならお話が出来ると思いました」
「先生の最初の一言が心に沁みました。先生は私の口の中を見て『大変ね、苦労したんですね。忙しかったのかしら…大丈夫ですよ』と言ってくださったのが、とても嬉しかったんです」
「先生が、どの先生よりも本当の事を言ってくださったので信用しました」
「『大丈夫、女性らしく美しい歯にしましょうね』と言われてホッとしました」
「先生の説明が分かりやすかったからです。今までの先生は、そこまで説明してくれませんでした」

 昔、開業したてで必死で勉強しながら働いていたある日、とても金持ちそうな男性が運転手付きの車で飛び込み来院され、私の提案する治療を黙って受けられました。3~4ヵ月経過し、治療が完了した日、私はこの方に一言お聞きしました。
「どうして私の治療を受けられたのですか?」
「君が、初めて本当の事を言った歯科医師だったからだよ。
 君は良い治療をした。決してこれからも自分の腕を安売りしないように…ありがとう」
 私は浮かぶ涙をこらえて、深々とお辞儀をしました。
 この患者さんの言葉が、今でも私の心の支えであり、歯科医師としてのプライドです。

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天ママStyle vol.93 “「ゆとり君」その後Ⅰ”

半年経った「ゆとり君」のその後の経過をお伝えします。
相変わらず患者さんがいない時は携帯をいじくり、昼休みは外へ出たまま帰って来ません。
4~5冊の本を渡してありますが、読んでいる気配さえもありません。
靴の踵をつぶして履くので、バタバタ音がして、さらにダブダブの白衣の着方で、どこから見てもだらしなさが目に付きます。単なるカバーメガネに引っ掛けているルーペが邪魔で、ゆとり君の気力のない目が見えません。
これらのすべてを注意すると、「大学ではこうですから…」と聴く耳を持たず状態……
「そういうの“馬耳東風”というのですよ」と笑いかけると、「なんですか、それ?」。思わず「じゃあ“春眠暁を覚えず”は?」、ゆとり君は自信たっぷりに「知りませんヨ!」。

最近、やっとインレー形成がまあまあになり、ホッとしていると、ある朝ブリッジ形成後の模型が2つ並んでいます。その2つの模型を新米のスタッフ(歯科助手)が見ながら悩み顔…
「どうしたの?」「先生、このブリッジ、入りませんよね」「確かに入りそうもないわ。先生に見せたの?」「はい、でも大丈夫と言われましたが、気になって技工所には出していません」「分かった、ありがとう。気が利くのね」

私はゆとり先生に模型を見せて、「このブリッジは入りませんよ」「え~、そうですかね。テックは入ったんですけど」。その生意気な返答はなんだと怒りたいのを我慢して、「ヘタなテックはどんな形成のブリッジでも入りますが、そんな基準値よりも、技工所に出す前に確認してください」「確認しました!」「アラ…だったら、そのメガネにくっついているルーペがおかしいのかしら…、それとも、どこがダメなのか分からないのですか?」「いや! そんなことは…」
私は鉛筆で何ヶ所かのアンダーカットを塗りつぶして、模型を置きましたが、未だ不服そうなゆとり君の顔!
追い打ちをかけて告げました。「こんな模型を出されたら、困るのは技工士さんです。技工士さんに“上手い”と言われる形成をしなさい」

ある日も
「この抜歯をやってみませんか?」
「いや、結構です」と即答…

そもそも、特に大学に残った研修生に多いのですが、何をせずとも何も言われず、それでも、国からはお給料が頂けて、大学に来られる患者さんからは「先生」と呼ばれ、“やる気”が無くてもなんとかなる卒後研修制度が“やる気”の芽生えを摘み取っているような気がします。
では、どうすればゆとり君に“やる気”を持ってもらえるのでしょうか。

「努力しなさい!!」もダメでしょうね。彼等にとっては“努力”という言葉は死語に違いありません。
「自分が患者さんや他人からどう思われているか気にならないのですか!!」
「はい、気になりません」でおしまいです。きっと…

歯を削るより身を削る思いで、誰よりも朝早くから診療所へ入り、休みの日はセミナーの受講で手一杯、それでも娘のためにお弁当は欠かさず作り、泣きたくなる程疲れ果てても、毎日一生懸命笑顔で患者さんとお話をし、スタッフ達に同情され、励まされ、毎月毎月の自転車操業で飢えを忍び、それでも患者さんの喜んでいただける笑顔が嬉しくて…
少しでもいい仕事を、誰よりも上手な仕事を…と思って、その思いが“やる気”になって、ここまで働いて来たのですが…

私は“やる気”は“生きる気”で、生きるためには働かなくては…
「働かざるもの食うべからず」と思っていたのですが…

こんな事をゆとり君に言ったら、「昔話ですか…」と冷ややかに言い放たれそうで恐いのです。

誰か“やる気”を植えつけるセミナーか相談会をやりませんか…
困ったものです。

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天ママStyle vol.91 “セッション1”

 先日『始めなければ、始まらない』と称して、突然皆様に声を掛けたところ、数名の有志の方々が集まってくださいました。
 これからの歯科界を夢と希望に溢れた業界にするためにはどうしたらいいのか! 何から手を付けたらいいのか! と日頃のうっぷん晴らしから始まって、ケンケン、ガクガク…話し合いの場を持ちました。
 簡単に結論の出るテーマではありませんが、3時間あまりのセッションの間に出た意見(本当に、単なる意見です)をまとめて書き出してみます。

①出来高払いの保険制度を根底から見直す必要がある。なぜなら、現在の歯科保険制度は患者さんを守るためのものではなくて…歯科医の最低賃金を保障している。つまり“点数ありき”なので、上手・下手というより、補綴物の場合は安い技工所を選ぶことに苦慮し、技工物の質が落ち、技工士さんを困窮させている。
②歯科疾患は自己責任の疾病なので、予防すればある程度は防げるはずのものなのに、それを保険診療に組み入れること自体が矛盾している。
③予防を保険でカバーして、補綴物を保険診療から外す方が患者さんのためになるかも。
④歯科医師はコストパフォーマンスを勉強するべき。
⑤民主主義の社会で、なぜ突然保険診療という社会主義が入っているのか…。国民皆保険という制度が、“予防”という概念をうやむやにしている(すべて保険でカバーすること自体に無理がある)。
⑥海外の歯科事情の勉強をすべきである。例えば、ある国では低所得者は無料で受診できるが、大学の研究生の対象となって、歯科医師の技術の向上に貢献している。もしくは年に数回、きちんと検診を受けている方がむし歯や歯周病になった場合は無料で治療を受ける事ができるが、まったく検診を受けていなかった人の場合は全額有料となる(ドイツ)制度があったり、歯科衛生士が開業しており、そこでスケーリングや検診を受け、治療が必要な場合は紹介状を持って専門歯科医へ受診する(カナダ)ことをシステム化している国が多い。
⑦これらの場合の治療費は、非常に高額なので任意の一般の歯科専門の保険会社に入っておく必要があるので、全体的に国民のデンタルIQが向上する。
⑧とはいえ、人口もむし歯も減少する世の中では、医学部歯学科がいいのではないか(この場合、6年間という期間をとる)。
⑨TPPが導入された場合のことを考えて、医療体制を考え直す必要がある。
⑩地方の方々(保険診療のみの治療体系の方)の現状をリサーチする必要がある。
⑪将来の人口減少と歯科医師の供給比率を調べましょう。
⑫歯科界に詳しい方のお話を聞きましょう。
⑬一般の方々に、とりあえず歯の話をする機会を持ちましょう。

【総括】
 歯科界に常日頃から抱く疑問、不安、疑惑の解明と、もしかして解決できるかもしれない事柄のあぶり出しをして、これからの歯科界を健全で希望あるものにしたいという思いで、皆様に声を掛けさせていただきました。
 厚生労働省をはじめ、一体誰が何を考えて現在のような歯科界にしたのか!! なったのか!!
 では、どのような歯科界が理想といえるのか!!

 などを、他の国の実情から学んだり、内情に詳しい方のお話を伺ったり、違う業界の方々の意見を聞いたり、隣のおばさんの好きな歯医者さんの話に相槌を打ったりしながら、歯科業界に関わるみんなで模索してまいりましょう。
 まずは、日頃の不満等を削除して、それを整理し、問題を明らかにする事から始めて、さらに日々の診療、経営等のお悩み相談、暴露大会的なセミナーも付け加えて、より身近な問題として捉えていきたいと思っています。

 不平、不満を言う前に、1つひとつ解決する事を考えましょう。小さな声を大きな声にして…歯科界を動かせたらと思います。
 始めなければ、始まりません!!

 次回のセッションは11月13日(日)を予定しておりますので、ぜひ皆様、お集まりください。

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天ママStyle vol.90 “「規則ですから…」”

 4歳児の治療をしました。治療が終わり、子供をお母さんに渡すと「偉かったわねぇ~」と子供に笑いかけ、私には「お疲れさまで~す」の一言!
 オイオイ、こういう時はその後「ありがとうございました」と付け加えるべきじゃないですか。それに偉いのは子供ではなくて治療した私です!

 お買い物をすると必ず「1万円からお預かりします」と訳の分からない言葉がついてきます。私は預けたつもりはないし、その『から…』という意味が分かりません。この場合は「1万円ですね」の確認だけでいいと思うんですけれど…。その『から…』が聞きたくないのと、マイレージポイントを貯めるために、最近クレジットカードを使う頻度が増えている私ですが、今度は必ずレジで「何回払いですか?」と聞かれます。
 “アホか! 3,200円をどうやって分割払いにするんだ!”と言いたいのをグッと堪えて「1回です」と答えますが、本音は“分割払いにする程の金額じゃあないでしょう!”“プラチナの人は分割はしませんが…”“失礼ですよ、私が分割する人に見えますか?”と声を荒げてしまいそうになっています。
 ある時、本当にレジの方にこう言ってしまいました。
「あのね、プラチナのお客様にはプライドを傷つけないように、当たり前のように『ご一括払いですね』と言いなさい。
 事情のある方は何回払いか言ってくださいますよ。分割が当たり前のように聞かれると気分が悪いものです」すると「規則ですから…」
「アホか!」
 いつからか、きっとコンビニができた頃からか、誰も、誰にでも同じ接遇を! という考えのもと、すべてマニュアル化してしまった結果、心の通う対応が失われてしまったようですね。

 昨年から、当医院の税理士事務所に電話をすると、やたら明るい声で「お電話ありがとうございます。●●税理士事務所の××です」と全員が電話口で言うようになりました。
 通常、税理士事務所に用がある時点で楽しい事はなく、暗い気分で電話するものです。
「はい、お電話ありがとうございます!! ●●税理士事務所…」と例のごとく、お決まりの枕詞……キレた私は叫んでいました。
「おたくの事務所への用件は、気分の落ち込む事しかないのに、何が嬉しくて、“お電話ありがとうございます”ですか?! 嫌味ですか?」「いいえ、規則ですから…」「では病院や葬儀屋に電話口で“お電話ありがとうございます”と人の不幸を喜ぶかのように言われたら、“待っていたのか?!”と腹が立つのが分りますか?」「はい、規則ですから…」
「分かってないです!
 その規則を変えなさい。枕詞は“おはようございます”“こんにちは”にしなさい!」
 2、3日後に改めて電話をしました。するとまた…
「お電話ありがとうございます!!…」から始まったので、私はまた怒鳴ってしまいました。
 その2、3日後に電話をすると、相手方は一言も発しませんので、こちらから「●●事務所ですか?」と聞くと「ハイ、そうです…」と暗い返事。
 きっと私の診療室の電話番号が登録されて、受話器を取る前に私からの電話だと分かったに違いないので、さらに頭にきて、「さっさと名乗りなさい!」とまたまた叫んでいました。

 『規則』という言葉にがんじがらめになることは、思考回路を動かさなくて、生きる上では楽なのかもしれませんね。

 私達歯科医は患者さんに「痛い!」と言われた時、ズキズキか、冷たい時か、熱いものにか、ツンツンした痛みか、食べる時なのか等々、痛い症状を伺い、その痛みの種類で診断の予想がつきます。
 ところがです。
ある時、私が10日程腹膜炎を併発した盲腸で入院した事があります。
 術後はじめての回診時に、数名の先生が私にこう聞きました。
「ところで天井さん、痛みますか?」
「もちろん痛いです」「どのくらいですか?」「どのくらいと言われても…」「では、⑩のうちのどれくらいの段階ですか? ④とか⑥とか」「その⑩の意味が分かりませんが…」「だいたいでいいので、規則ですからお答えください!」
「アホか!! 身体の痛みを数値になおして、どういう意味があるんですか? 痛いんですよ。痛い、の! とにかく痛いんです、こういうのを⑩と言うんですか!!」

 点滴を見た先生が、声を上げました。
「すみません、痛み止めを入れ忘れていました!!」

 私、絶句!!
 どういう規則だっちゅーの!

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天ママStyle vol.89 “ゆとり君”

埼玉の診療所は娘がいなくなったため、新しい歯科医師が入ってきました。大学の保存科に残っていた彼はおだやかで、ゆったりとした雰囲気で、すぐにファンになる患者さんが増えそうです。

1カ月が過ぎました。おやおや、何も出来ません。
確かに根治は危なげなくやりこなしますが、その他がひどい!
「君、何か出来ないことある?」と嫌味を言ったつもりが、「僕ですか? 何でも出来ますヨ!」と自信たっぷりの返答…ホンマかいな…
形成をさせると、スライスカットが出来ない、アンダーカットだらけ、マージンがガタガタ…。印象を採っても、すぐに気泡の有無を見もしない。最悪なのは、出来た石膏模型の確認さえもしない。
気泡やマージンの不明が、技工士さんを困らせる事になるなんて、まったく気にもしていない。
よくよく聞いてみると、上手な形成と下手な形成の意味が分からないらしい事に気が付いた。
彼の模型の気泡を見つけて「やり直し!」と言おうものなら、「エッ、どこに気泡があるんですか?」。スライスカットが出来てない事を注意すると、「そうですかねぇ~、へぇ~」。
おいおい、その上から目線の返事はおかしいゾ!
仕方がないので、いちいちメモ用紙に図で示したり、注意書きを書いたりして説明をする。ところが次の日に行くと、私が書いたメモ用紙は、まったくその机のその場に置かれたまま、つまり散らかったままの机の上に放置されている。
「おまえはB型か!」 「いいえA型です!」
こういうのをゆとり世代というらしい。

親からも先生からも怒られた事も叱られた事もなく、つまり、面倒な干渉をされた事がないので、何が正しいのか、悪いのか、上手なのか、下手なのか、極端にいえば、コンビニ育ち世代のため、食事の味さえ判断できず、要するに判断する必要もなく育ち、言われた事をやり、その結果の責任を問われた事もないので、全てがなんとなく過ぎていく…
金持ちになりたいという野望やいい車が欲しいなんてとんでもない事で、海外だって行きたくない。
“夢”とか“希望”って叶わないから、“夢”とか“希望”っていうんですよね。
そうだったっけ???

こんな感じだから、治療も患者さんから「抜かないで!」と言われれば、たとえグラグラでバキュームを当てたら吸い込んでしまいそうな歯でも残したり(こうなると下手とか、言いなりというより、神技!)、「とりあえず噛めるように」と言われれば、律儀に保険の銀歯を入れて、咬合調整はもちろん「高いです、高いです」の返答をメドに削り過ぎ、その削り過ぎに気が付かず…

挙句の果てが、患者さんがまた来てくださるかどうかばかりが気になり、治療内容が正しいかどうかという事よりも、上手か下手かという事よりも、話術で勝負する、そんな歯科医師になってしまうよ、ゆとり君!!

私以上に人を見る目を持つスタッフのボスが、こう言った。
「院長、何も言ってはいけません。人柄はいい方なのですから、とりあえずいてくださるだけでいいじゃあないですか…」「はい」
世の中は変わったんですね。

私は諸事情で30歳で歯学部へ入学し、卒業した時は36歳でした。同級生と10年の差がありましたので、卒業してからは必死でした。“上手くなりたい”“儲けたい”はもちろんのこと、“立派な歯科医師になりたい”“オールマイティな開業医になりたい”とがむしゃらに働きました。
そして、私が入れた歯で女優のように美しくなり、私が入れた義歯で健康を取り戻し、笑顔が若くなり、私がやった咬合調整で肩こりが治り、更年期障害が軽減し、ゴルフがうまくなり、ホームランを量産するようになる…
そんな患者さんに喜んでいただける立派な歯科医師になろうと一生懸命勉強しました。

若い歯科医師諸君!
君のこれからの歯科医師人生は長いですよ。結婚をし、家族を持てば、背負う人生は長い上に重くなります。時には辛くめげそうにもなりますよ。
そんな時にこそ、自らの目標をしっかり持って、立派な歯科医師をめざしてください。

もしかして、「立派って、どんな事を言うのですか?」ってゆとり君から聞かれそうですね。答えは、「私のような歯科医師の事を言います!!」と答えたら、きっと、ゆとり君は訳が分からなくて、笑うか、当医院を辞めてしまうかも…
だから当分は何も言わず、これからも何も言わず、ゆとり君の動向を楽しんでみる事にします。

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天ママStyle vol.88 “娘と私(その2)・3万円のディナー”

中学生になり、反抗期に入った娘に母はとうとう音を上げて“早く東京へ引き取ってくれ!”と言いました。
友人達は女子高を勧めてくれましたが、父親がおらず、兄弟もいない娘のために、自転車通学が可能な男女共学の帝京高校を選びました。
当時の帝京高校は、サッカーも野球も日本一で、その日本一のサッカーや野球部員のいるクラスは活気に溢れ、勉強するより応援に飛び回り、高校生活で考えられるあらゆる楽しい経験をしたと後に娘は言っており、私の高校選びは成功しました。

高校1年生の夏休み前に、娘に何がしたいかと聞くと、中学生の頃からクラブを握っていた娘は「ゴルフをやりたい!」と答えました。
そこで、ゴルフ場を経営している友人に連絡をし、ひと夏、娘を預けることにしましたが、その友人に「女の子を、それも16歳を山奥のゴルフ場で預かるのはいかがなものか…」と心配されました。しかし、「殺されなければいいんです。責任は全部、私にあります。よろしくお願いします」と頼み込みました。

夏休みに入り、娘をゴルフ場に預けに行くと、マネージャーさんが、プロゴルファーを目指す研修生のための寄宿舎に案内してくれましたが、クーラーも無く、ボロボロの畳の部屋です。
私は近くのスーパーに走り、カーペットと洗濯用のロープを買い、カーペットを敷き、ロープを部屋に張り、洗濯物を外に干さないように指示して帰ろうとすると、娘は涙をこらえて、
「私はゴルフをやりたいと言っただけなのに…」
「だから、これが1番近道なのよ。頑張ってね。3日経ってもダメだったら、迎えに来るからね」
笑顔で手を振りながら、私の心は穏やかではありませんでした。

1日目…夕方、大泣きで電話があり、
「帰りた~い」「あと2日頑張りなさい!」
私はマネージャーに電話をして、その日の夕食を娘と一緒に食べて欲しいと頼みました。
2日目…また、泣きながらの電話。
「いやだ~帰りたい」「あと1日我慢しなさい」
マネージャーは、この日も一緒に食事をしてくれたようです。
3日目…泣いていません。
「あっ、ママ」「3日経ったから、明日迎えに行こうか?」
するとしっかりした声で「来なくていい」「大丈夫なの?」「うん」
電話を切った私の方が、泣きそうになりました。

10日程経過した週末、年2回の河邊先生の特別セミナーを受け疲れて帰って来ると、自宅に人が入った気配がします。
テーブルに娘からの書置きが…“勉強道具を取りに帰りました。お風呂に入りました。気持ちよかったです。戸締りはきちんとしてください”

私は慌ててクーラーボックスを持って外へ飛び出し、タクシーを止めて取手のゴルフ場までの往復のタクシー代を交渉し、そのタクシーに飛び乗りました(疲れている事と翌朝が早い事を考えると、自分で運転する気になりませんでした)。
途中でクーラーボックスをいっぱいにし、ドライバーに30分待つように告げて、真っ暗な山道を歩き、寄宿舎の庭に回り、雨戸を叩くと“だれ~~~!!”と娘の叫ぶ声が…
驚いたことに、お盆休みで寄宿舎には娘以外、誰もいません。
案の定、寄宿舎の夕食を食べそびれていた娘はコンビニのお弁当を嬉しそうに食べています。
「サハリね、今夜のこのディナーは高いよ!」
「へぇ~いくら?」「デザート込みで3万円」「ふーん」
往復で3万円のタクシー代で飛ばして来た私に驚きもせず、平然とお弁当を食べる娘を見ると、娘の身体はあせもに塗ったシッカロールで真っ白です。
「どうしたの、その白いの?」
「キャディのおばさんが心配して扇風機を貸してくれて、このシッカロールもくれたの。おばさん達、ママの事を“鬼”って言ってたよ!」「サハリもそう思うの?」「ううん、思わないヨ」

私は、この真っ白になった娘を連れて帰ろうと泣き崩れそうになりました。でも、キャディのおばさん達の顔が浮かび、(私の娘だ、この子は負けない…キャディーさん達、どうかこの子を見守ってください。私は鬼の親です!)、タクシーを待たせていた事を理由に、娘をそのままに、その場を後にしました。
「戸締りをちゃんとするのよ!!」

長かったような、短かったような3週間程が過ぎ、取手のゴルフ場に駆けつけた私は、待っておられず、娘を見つけると18番ホールに向かって歩き始めました。
お客様に気を使いながら働く、真っ黒に日焼けした娘に手を振ると、お客様全員で私に手を振ってくださって、その中のお1人が、「あなたのお子さんですか?とてもいい子ですね。何も言わず好きなように育ててあげてください」と言ってくださって…
私は涙でグシャグシャになりながら、何度も頭を下げ、娘の粗相を伺い、嬉しさと有難さに胸がいっぱいになり、娘を抱きしめていました。

娘の高校1年生の夏休みはこうして完結しました。この経験のおかげか、娘はバフィーで230ヤードは飛ばせるようになり、同級生の東尾理子ちゃんと帝京高校でゴルフクラブを作りました。

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天ママStyle vol.87 “娘と私(その1)”

青いあおい空に…遠くとおく続く砂浜…寄せる白波…

走り回る日本から連れて来たジャックラッセルの“ハニー”を追う“クリス”。
すっかり化粧をすることを止めた娘の“サハリ”が持つバスケットの中には、クリスが大好きなからあげと卵サンドイッチとコカコーラが入っている。

「ランチにしない?」娘は2人に声を掛けた。

私が30歳で北海道の歯学部へ入学した時、娘は2歳前でした。その半年程前から嫁ぎ先を飛び出し実家で居候生活をしていた私達に世間の目は冷たく、「サハリちゃん、パパはどうしたの?」と遠慮のない質問をしてきます。
「パパはいないの!」と健気に答えて笑う娘を見て、私は歯学部入学前に離婚届けを出す決意をしました。

突然歯学生となった私は、冬、春、夏休みは実家へ帰り、娘と1日中たっぷりと過ごしていましたが、やがて大学へ戻る日になると、娘は朝からタオルで顔を覆い、私の車に手を振るやいなや自分のベッドにもぐり込み、「来ないで、来ないで!! 誰も来ないで!!」と泣きじゃくっていたそうです。

私は私で、遮る雨が降っているわけでもないのに、ワイパーを動かしながら止まらない涙に視界を失っていました……。

ある時、幼稚園児になった娘が言いました。
「ママはどうして優しいパパと結婚しなかったの?」
「なぜそんな事を聞くの?」
「優しいパパがいたら、ママが学校へ行って勉強しなくても良かったでしょう?」
「パパは本当は優しい人だったのよ。だけど約束を破ったの…ママは約束を破る人は嫌いなの。ママが今、学校に行っているのは、サハリと2人で楽しく暮らす為なのよ。
もう少し我慢してね。
それより、あなたには、兄弟も、いとこも、パパもいないので、ママが死んだら1人ぼっちなのよ。だから1人で生きて行く事を考えなさい!」
「いやだぁ~、ママが死んだらいやだぁ~」
「何言ってるの、しょうがないんだから、今から覚悟しておきなさい!」
「いやだぁ~…」

すると突然聞こえた母の声。
「おまえ、こんな小さな子に何を言っているのですか!
止めなさい! かわいそうに…」

歯学部を終えようとする頃、教授の推薦で、義歯の大家の河邊先生の臨床教室に通えるお話をいただきました。私はどうしても、このチャンスを逃したくなくて、小学生になっていた娘に、あと2年間、勉強させて欲しいと頭を下げるために、実家へ帰りました。

娘は私の勝手な申し出に、「ママ、私は6年間もママを待ったのよ。なんで帰って来てくれないの……」と号泣!!
私は心を鬼にして言いました。
「ごめんなさい。本当にごめんなさい。おまえが大きくなって、やりたい事や行きたい所、好きな人が出来たら、ママは全力で応援するから、今はママのやりたい事を応援して欲しいの…
お願いです。ママはもう少し勉強したいのです!」
「いやだ~、絶対いやだ~」
またもや、泣きじゃくる娘……

東京に出て、夜9時過ぎまで働きながら学ぶ私には、娘を引き取る余裕はありませんでした。そんな私に、長い休みになると今度は娘が会いに来てくれるようになりました。

なかなか帰宅しない私を責めもせず、田舎にはない“セブンイレブン”で焼きソバ弁当を買ってじーっと待っている小学生の娘……いつからか、院長室で寝て待つようになりました。

すっかり寝てしまった娘を抱きかかえての帰り道。
『この子はきっと私を理解してくれる。でも寂しくて寂しくて仕方がないんだ…。私も同じように寂しいし、何の為にこんなに働いているのか時々分からなくなるけれど、早く稼げるようになり、早くあなたを引き取れるようになるからね』
泣く力もなく、疲れ切っていた私でした。

サンディエゴの海は、どこまでもどこまでも青く遠く、水平線の遥か向こうに……日本がある……
年末に結婚したクリスとサハリは、初めて訪ねて来る私をどんな想いで待っていてくれるのだろうか?

「ママに、虎屋のおしるこを頼んだよ。それに切り餅とセブンイレブンの魚の缶詰とシャケフレークに、桃屋のラー油も。それから大葉と枝豆の種も」
「ママは運び屋かい?」
「うん、重量オーバーになるからビジネスクラスにしたって…」

私は何が何でも2人の幸せを祈っている……
(次号は娘を東京へ引き取ってからの事を書いてみようと思います)

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